2016/06/14

言葉は習慣だから、英語は口癖にする

【新・英語屋通信】(74)

【Q】NHKに「アナザー・ストーリーズ」(another stories)という番組があります。「another=an other」だから、another の直後の名詞を複数形にする言い方に違和感を覚えます。ネイティブさんに聞いていただけませんか。
(H・T)


【A】間違いと申していいでしょう。その番組は知っています。秘話(a secret story)と言うか、裏話(an inside story)を3種類くらい紹介する構成のドキュメンタリィだから、あえて言うなら the other stories となりそうです。
 other は「ほかの」という意味で、品詞が determiner(決定詞または限定詞)だから、後続の名詞を限定する役割の単語です。数えられる名詞(可算名詞)を後ろに続けるとき、other なら other words(ほかの言葉たち)と複数形を続けることが可能です。また「もう1つの」と特定するときは the other side(別の側)などと言いますが、三角形なら1辺に対する別の辺が2カ所あるので the other sides of a triangle(三角形における他の2辺)という表現になります。「不特定の複数および特定された単数・複数」などに対して、other の使われ方は厳密です。
 another は other の対象になる可算名詞が不特定の単数のときに用いる単語だから、いうなれば the other ではない状況です。日常会話で「話をそらさないで」と言うとき、“That's another story.”(それは別の話だ)とか、“That's quite another thing.”(それはまったく別の事柄だ)と言いますが、これらの慣用句に a (an)≒ another の関係がよく示されています。
 ちなみに、one after the other(代わる代わる)は「特定された the other に続く one だから、2つの関係」に対して用い、one after another(次から次へと)は「特定されていない another に続く one だから、3つ以上」に対して使う語句です。とすると、each other(互いに)と one another(互いに)においても、同じく「2つと3つ以上の法則」が適用されるはずですが、必ずしも守られていません。
 以上、other と another の原則的な使い方を傍観しましたが、要するに言葉は癖だから、誤用であっても、多数派が正しくなり、理屈を超越して成り立つ場面があります。
 『万葉集』の巻末に大伴家持の「新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事」の歌では、「新」を「あらた」と読むようですが、現代語では「あたら」と読みます。とはいうものの、「新たに」の「新」は「あら」だから、古語がいまなお現代語の中に引き継がれています。
 other と another について言うと、英語の核のような存在だから、ちょっとくらい異なる遺伝子が入り込んでも、いまのところ両者の関係にひびが入ることはなさそうです。下記に other と another の慣用語句を掲げておきます。

〔other と another の慣用句〕
 “Any other question(s)?”(何らかの質問)
 in other words(言い換えれば)
 the other way(反対に)
 on the other hand(他方では)
 “How about another cup of coffee?”(もう1杯のコーヒー)
 in another three years(別の3年間)
 another of the books(もう1冊の本)

 言葉は理屈で覚えるものではなく、音声を介して習慣にするものです。日本語では感覚が曖昧な other および another を使う言葉は、口に慣らすことが肝要です。1つの語句を100回(1分間強)ほど繰り返して言えば口癖にできます。(編集部)

2016.6.14(火)